4 「めっきの工法・設備」の章

  1. 01 バレルめっき

5 「めっきに必要な処理」の章

  1. 01 綺麗にめっきをするには?
目次

7「めっきの製品適用事例」の章 特殊焼結材料へのめっき(圧電素子、熱電素子、磁性材料)

圧電素子材料-PZT上へのめっき

圧電素子材料とは、機械的な動きを電気信号に変えたり、逆に、電気によって機械的な動きを作り出すことができる材料のことです。イヤホンやスピーカーなどといった音響関連機器や、加速度センサーやジャイロといった位置を検知するシステム、さらには、超音波用振動子や、超音波モーターなど、高速で振動させる小型素子としての需要が高まっています。
圧電素子材料に電気信号を送るための電極を形成するために、めっきは有効な手段となります。圧電素子材料として有名な材料が、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3 - (PZT))ですが、こちらは、めっきが難しい材料の1つとされることがあります。

圧電素子材料へのめっきが難しい理由とは

圧電素子材料へのめっきが難しい理由としては、2つあります。
1つ目は、材料中に鉛が入っているためです。鉛は、前処理中に溶解しやすく、組成変化による特性劣化が起きやすいことに加えて、無電解めっきにおいて、反応を阻害する特性があるため、安定しためっき析出が困難となります。
2つ目は、同じPZTでも、材料や組成、焼結状態など、製法によって全く出来栄えが異なるためです。
材料作製条件のちょっとした違いでも、めっき品質に違いが出た事例もあります。
当社では、お客様とディスカッションを密に行いながら、めっき条件の最適化を目指して取り組んでいます。

めっき処理中の鉛の影響イメージ
めっき処理中の鉛の影響イメージ

熱電素子材料上へのめっき

熱電素子材料とは、電気によって温度差を作り出すことができる、ないしは、温度差によって発電を行うことができる材料で、ペルチェ素子と呼ばれています。その産業用途は、主に冷却用途に使われることが多く、光通信やコンピューターの冷却などの情報通信分野や、振動や騒音を嫌う特定用途の冷蔵庫などが多くなっています。近年では、カーボンニュートラルの高まりから、発電用途でも注目されていて、工場排熱や地熱を利用した発電への応用が検討されています。

熱電素子材料は、非常に小さなチップ状の素子に電極を形成し、非常に多くの素子を直列につなぐことで、外界との電気のやりとりが可能になるため、めっきは、電極形成の有効な手段です。ただし、直列接続の一部でも断線しますと、素子として機能しなくなってしまうので、高品位の接続が必要になります。また、高温環境や、温度差といった、めっきにとっても非常に過酷な環境に置かれることが多いので、めっきの信頼性が重要になります。

この熱電素子として有名な材料が、ビスマス-テルル系であり、ビスマス、テルルの他に、アンチモンや希少元素を添加し、焼結して作られます。めっきにとっては、非常に難しい材料となります。焼結状態によって、前処理中の材料の溶出状態は様々であり、また、材料そのものの強度が低下する懸念もあります。さらに無電解めっきにおいては、めっき反応を抑制する元素が多く含まれるため、安定的なめっき反応が難しくなります。

当社では、非常に多岐に渡る分析機器を駆使しながら、材料の状態やめっきとの界面の状態、表面の組成変化などを明らかにし、お客様の材料に合っためっき条件を構築するべく、お客様とともに技術開発を行っています。

熱電素子材料上へのめっき
熱電素子材料上への接合めっき

焼結磁性材料上へのめっき

ネオジム磁石は、金属を焼結して作られている、最も強力な磁石のひとつです。その用途は、モーターやスピーカー、電子レンジ、通信機器など、非常に多岐に渡っており、特にモーターに関しては、近年のハイブリッド車や電気自動車などで急速に需要が増えています。

ネオジム磁石は、鉄が主成分で、ネオジウム、ホウ素、その他の希少金属を焼結して作られており、非常に酸化しやすい材料です。酸化してしまうと、磁性を失ってしまうので、酸化防止として、一般的にはニッケルめっきがされています(市販のネオジム磁石は銀色をしていますが、これは、磁石の色ではなく、ニッケルめっきの色です)。めっきは、着磁と呼ばれる、N極とS極を作る前の材料の状態で行われます。従って、めっき中に、磁力によって磁石同士がくっついてしまうことはありません。また、ネオジム磁石のめっきに関しては、処理中に特定の元素が溶出し、磁性が変化してしまうことがあり、適切な処理条件を構築する必要があります。

当社では、1991年に、世界で初めてNd系磁石のめっき量産化に成功しました。量産化から30年、現在では、Nd系磁石表面を殆ど荒らすことなく、密着性の良い、ニッケルめっきを⾏うことが出来るようになっています。

磁石製品
磁石製品

まとめ

焼結材料は、種類によってめっき処理しにくい性質を持っているものが多いため、適切な処理工程の見極めが重要です。当社では、良いめっきを目指して、お客様とディスカッションを行いながら、日々、試行錯誤を繰り返しています。